【読書】大学生が勧める、知的好奇心をくすぐる人文系の本8選

はじめに

 大学生になってからというもの、「図書館行けばタダで本読める!使わないともったいない!」精神で、よく本を借りています。私は文学部で心理学を主に学んでいる学部生ということもあって、特に人文系の本で有名なものや話題になっているものをよく読みます。

 趣味なのでどれも楽しく読んでいるのですが、これまでの読書経験をふりかえってみると、「本当に読んでよかった…!これはあらゆる人に読んでほしい…!」という本はなかなか貴重です。

 そこで、私が読んできた人文系の本の中で、特に素晴らしい読書経験だったと感じているものを紹介してみたいと思います。

 私がここで紹介する本は、ガチガチの専門書といったものではなく、一般向けの学術書といった位置づけの本がほとんどです。なので、「その分野のことなんて全く知らない…」という人でも大丈夫です。

 一般向けの学術書といっても玉石混交ですが、本当に良いものは平易な文章でありながら、自分の知らない世界へと誘ってくれ、新しい物事の見方を知る楽しさや不安を乗りこなす力を与えてくれるように思います。

 「読めばすぐに役に立つ!」といった直接的で即効性のあるハウツーは書かれてはいないですが、日々の生活を刺激的で、面白く、豊かにしてくれると思います。

 どの本も本当におすすめです! 以下、本の紹介です。

 

 

社会心理学講義

 その名の通り、社会心理学の本です。私が最も尊敬している学者である、小坂井敏晶さんのこれまでの研究のエッセンスが凝縮されています。この本の良いところは、否応なしに社会から影響を受けている人間像について考えさせられるところです。

 心理学の概説書によくある単なる実験の羅列ではなく、複数の実験結果を解釈して新たな認識に至る過程を示していきます。普段は問うことのない社会のシステムや人間像といった常識を疑い、思弁的に問いを追求していくのには本当に痺れます。知的好奇心を満たしてくれる濃密な読書経験になること間違いなしです。

 私は、小坂井さんの本を読んで「人文学って面白い。」と心から感じることができました。この本に巡り会えて良かったです。

 また、小坂井さんの本はどれも素晴らしいので他の本もぜひ。『民族という虚構』『責任という虚構』は、それぞれ「民族」「責任」をテーマに据えて、人間が生み出した「虚構」を軸にしながら考察を進めていきます。『異邦人のまなざし』というエッセイもあるのですが、破天荒な人生が赤裸々に記されていて抱腹絶倒なのでこれも読んでほしいです。

社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)

社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)

 

 

 

 

 

社会学の考え方

 社会学者、ジグムント・バウマンさんとティムメイさんの本です。「社会学とは何か。」から始まる入門書ですが、割り切れない「曖昧さ」や「境界線」に関する議論が一貫してなされていて面白いです。

 社会学の入門書の類は何冊も読みましたが、個人的ベストはこれです。ちなみに、第1版と第2版は全く別の本となっています。第2版では、共著者として同じく社会学者のティムメイが加わり、トピックや文体が現代的となってテンポもよく理解しやすいものとなっています。

 社会学の思考法は、物事を見聞きしたり考えたりすることに対してすごく有益だと感じています。ひとつの事象がいかに様々な要因と絡み合っていて、身近なところにも社会的な力学が働いていると知ること。

 これまでは「そういうものだ。」と完成品として理解していた事象に対して、「なぜそうなっているのか。」「他の作用もあるのではないか。」と新たな問いや解釈を自分の中に生じさせる思考を社会学から学びました。

 自分の見ている世界に揺さぶりをかけていく刺激的な体験は癖になります。

社会学の考え方〔第2版〕 (ちくま学芸文庫)

社会学の考え方〔第2版〕 (ちくま学芸文庫)

 

 

 

断片的なものの社会学

 社会学の中でも生活史という、当事者の語りを分析する分野を専門としている社会学者の岸政彦さんの本です。

 この本は岸さんの調査の中で分析しきれない「無意味な語り」が集められたもので、理論やデータなどには触れない感覚的なエッセイです。小説を読んでいるかのような感覚でした。路上でギターを弾いてるおっちゃんや元風俗嬢などのエピソードが綴られていきます。

 この本を読んで、「自分の全く知らない人が今日もどこかで生活している。」そんな当たり前のことの尊さをしみじみと感じ入りました。

 世界が自分の知らないことで満ち溢れていて、自分の知りうる範囲がいかに限られているか。「無意味な語り」がなんと美しいか。これは人間賛歌です。

 過剰な情報に惑わされる日常から少し距離を置いて、周りの人や自分の生活をゆっくりと顧みる余裕を与えてくれました。

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

 

 

 

紋切型社会

 フリーライター、武田砂鉄さんの本です。言葉に焦点をあて、社会の閉塞感をほぐしていきます。20の様々なテーマの切れ味鋭いエッセイが続いていくのは痛快です。

 皮肉も多く、相当にひねくれた粘着質な文章なので、好き嫌い分かれるかもしれません。ですが、武田さんの文章は単なる悪口ではなく、現実を新たに捉え直すための問題提起がなされているように感じます。「ラディカルな物の見方といえば、この人!」と思っています。

 普段の生活では、何か違和感があっても「まあいいか」と思考を停止してしまいがちですが、武田さんの文章を読むと、その違和感を粘り強く追求していくことの重要性をひしひしと感じます。

 「大切な価値をないがしろにしてしまっていないだろうか」と流されずに考える重要性。読後は、普段は何の気なしに使用していた言葉への感性が高まりました。

紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす

紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす

 

 

 

 

 

哲学の教科書

 哲学者、中島義道さんの本です。武田さんに続き、中島さんの文章もまあまあ毒が強いので好き嫌い分かれそうですが、私は好きです。

 「教科書」と銘打ったタイトルですが、哲学史には全く触れません。その代わりに、中島さんが哲学的な問題について悪戦苦闘している過程が書かれています。

 特にこの本の中で何かしらの結論が出ることもないです。ただ、考えるほどに難解な問題に行きついてしまうけれども、その矛盾から目を背けない姿勢が示されています。

 私は、そんな泥臭い姿勢が読んでいて面白かったし、これが哲学的な態度かと感じました。偽善的、欺瞞的な態度を退けて物事を理解しようとする試みは、地獄への道を歩んでいくようです。

哲学の教科書 (講談社学術文庫)

哲学の教科書 (講談社学術文庫)

 

 

 暇と退屈の倫理学

 哲学者、國分功一郎さんの本です。「暇」と「退屈」という哲学の本らしくない単語に惹かれてつい手に取ってしまいました。

 「豊かさ」「働くこと」「娯楽」など、誰しもが人生で悩みそうなことについて触れていきます。身近な概念がテーマなので、イメージがつきやすく読み進めやすいです。

 読んでいて、有名な哲学者の考えに対しても批判的に自身の考えを提示し、自分の持っている悩みを哲学的な問いに連結させていく國分さんの姿勢に痺れました。

 また、文中の一節「人は楽しみ、楽しむことを学びながら、ものを考えることができるようになっていくのだ。」がとても響きました。私も色んなことを面白がれるように、学ぶことを続けていきたいと強く感じました。

暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)
 

 

 

 

啓蒙思想2.0

 カナダの哲学者、ジョセフ・ヒースさんの本です。「人間がそこまで合理的で理性的な存在ではない」という事実を心理学、認知科学行動経済学などの研究を踏まえて述べていきます。そして、その事実を踏まえて健全な政治や生活を実現するためにどうすべきかを考えていきます。

 とてつもなく大きなテーマに対して取り組んでいく壮大な本です。ハードカバーで本文400ページ以上あるので敬遠しがちですが、展開が面白く、かじりついて読んでいけます。

 この本の面白いところは、様々な研究結果を引き合いに出して新たな人間像を示し、現実社会の本当に大きな問題に対峙していくところです。

 最近はフェイクニュースやポストトゥルースといった言葉が流行し、「人を説得するには、理性に訴えかけるよりも、共感に訴えかける方が効果的だ。」という事実がよく知られてきました。

 そんなろくでもない現状を出発点として、現代に正気を取り戻すにはどうすべきかという希望を考えているように読めました。今を生きる私たちへの熱いメッセージでした。

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために

 

 

 

 読んでいない本について堂々と語る方法

 フランスの学者、ピエール・バイヤールさんの本です。タイトルが魅力的だったので手に取りました。「堂々と」と書いてあるところが潔くて好きです。タイトルだけ読むと、内容の薄っぺらいビジネス書のようですが、全くそうではありません。

 一般的に理解されている「読んでいない本」「読んだ本」といった区分を解体し、私たちがどのように本と向き合っているのかを再考し、新しい読書理論を構築していきます。

 その中で、教養や批評についても触れていきます。そして、読者自身が自分自身を語る「創造」のプロセスにまで迫ります。ユーモアに溢れた筆致で、楽しく読み進めていくことができます。

 この本を読んで、「読書」を新しい見方から眺めることができました。「ただ本を読んでいればいい。」といった受動的な読書観を変えてくれます。「とりあえず本を読まないと。」と肩ひじ張って生真面目に読書に取り組んでいた自分を解き放ってくれます。

 読後は、どこかで聞いたことのある「勉強とは、自己破壊である。」という言葉の意味が腑に落ちて理解できたような気がしました。特にこの本は、大学1,2回生の頃に読んでいたかったなあと思いました。

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

 

 

 

おわりに

 これで以上です。予想以上に長文になってしまいました。読んでいただき本当にありがとうございます。

 大学生最後の夏休みということで、自分で書くことに憧れていた「おすすめ本」記事を書いてみました。

 自分自身の読書体験をふりかえる目的で書いたので、本のあらすじよりも私の感想ばかりですが、これを読んで「この本は読んでみたいな。」と思っていただけたらとても嬉しいです。

 これからも良い本に出合えるように色々読んでいきたいと思います。